とある地方の山で“うに”が採れるんです!福井県伝統食『山うに』
海に行ってもみつからないウニ!山にウニがあるの?
保存食として作られてきた幻の薬味!
福井の山奥に伝わる伝統の調味料『山うに』とは?
山で”うに”は採れないだろうと思いますよね?実は福井県のとある地方では山に”うに”があるんです。その名もスバリ
『山うに』。
そんな
福井県の伝統食『山うに』をご紹介します。
「御食(みつけ)国」と呼ばれていた福井県
越前の緑豊かな山々、若狭の清らかな水、福井県は自然に恵まれた地域です。鯖江に代表されるメガネ産業は全国生産90%を誇り、楽器のハープの生産は福井県が国内唯一です。
日本海側ですが、沿岸部は冬でも比較的暖かく、雪よりも雨が多いほどで「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほどの年間降水量があります。その反面、山側は豪雪地帯となっていて、厳しい冬の環境があります。
そんな自然に恵まれた福井県ですから、様々な食文化が生まれました。
若狭湾で獲れる魚介類、特に越前かには有名ですし、全国トップクラスの生産量を誇るそばを使った
越前そばも聞いたことがある人がほとんどでしょう。昔は京都の宮中にも福井県の食材は運ばれていたそうで”御食国”と呼ばれていました。
福井県の中でも特徴ある地域「河和田地区」
メガネ関連産業で有名な鯖江市の中心部から車で東に15分、約10㎞のところに
河和田地区はあります。三方を山に囲まれ夏にはホタルが乱舞しオシドリも訪れます。良質な漆が採れるため、越前漆器の町として1500年の歴史があり、職人の文化は今でも根付いていて、近年はメガネの国内製造を担う職人の町の側面も持っています。そんな河和田地区ではその気候・風土に合わせて独自の食文化が生まれました。その際たるものが『山うに』というわけです。
河和田地区伝統の『山うに』とは
『山うに」とは柚子、福耳とうがらし(赤なんば)、鷹の爪、塩で作る伝統の薬味のことです。
11月から12月の冬に採れた柚子を各家庭で『山うに』にします。今では地元の若者は知らない人もいるそうですが、
冬の間の伝統の保存食だったのです。
福井県の海側の特産品”塩うに”に見た目がそっくりなので『山うに』と名付けられたそうで、かつては保存を効かせるために今よりもしょっぱく、地元では冬の風物詩で”うちの山うにが一番うまい”と各家庭が自信を持っていたそうです。
鍋物やおでんの薬味、お刺身のワサビ代わり、そばの薬味と何の料理にも合います。ピリッとした辛味に中にまろやかな甘みがあり、柚子胡椒に似ていますが一度食べれば『山うに』もうまいと感じるでしょう。
作り方は柚子の種を抜き皮を含む丸ごとフードプロセッサーで細かくします。赤なんばも種を抜きこちらもフードプロセッサーで細かくし、粉末状にした鷹の爪、塩を加えすり鉢とすりこぎでひたすら擦ります。柚子のえぐみが取れまろやかな甘みを感じるまで1時間は擦る家庭もあるようです。擦り過ぎると苦みが出てしまうようで、そこは熟練の勘が必要になってきます。材料は決まっているのですが、各家庭独自の配合と擦り時間があるので「うちの『山うに』が一番うまい」と感じるのでしょう。
なぜ『山うに』は生まれたのか?
河和田地区でなぜ『山うに』は生まれたのでしょう。河和田地区は山に囲まれた豪雪地帯です。冬になると雪深くなり、外界と遮断された環境になります。
閉鎖された地域だからこそ、冬の間の保存食は必要だったのです。特に『山うに』に使用されている”柚子”はビタミン・ミネラル豊富な果実です。古くは薬用として使用されていましたし、果肉よりも栄養の多い果皮ごと擦り潰す『山うに』は”柚子”の健康効果を丸ごと摂取できてしまいます。また、河和田地区伝統の美しい越前漆器に『山うに』の黄色や朱色が映え、見事なコントラストになります。伝統を重んじ、歴史ある神事を続ける河和田地区では、美しい漆器と『山うに』のコントラストは縁起が良かったのかもしれません。
後世に残すべき食の逸品
地元の若者も『山うに』を知らない世代が増えているといいます。幸い、河和田地区は若い職人たちの憧れの地区となっていて、移住希望の若手職人が増えているそうです。職人の町として技術を後世に残していくことも重要ですが、その土地独特の食文化である『山うに』も後世に伝えていかなければならない逸品なのです。